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講演会レポート「低線量被ばくのリスク管理」(日本商工会議所環境・エネルギー委員会)

日本商工会議所では、2月16日に第10回環境・エネルギー委員会を開催し、「低線量被ばくのリスク管理について」と題して、内閣官房 副長官補室 内閣参事官の松永明氏による講演を行った。配布資料、講演概要は次の通り。

 

低線量被ばくのリスク管理に関するWGは、細野大臣の要請に応えて、3つの課題(1.年間20ミリシーベルトという低線量被ばくの健康影響2.子ども・妊婦 への配慮事項について3.リスクコミュニケーションの在り方)について、専門家による科学的見地から見解を出すために設置された。議論はインターネットの動画中継で生 放送され、公開で行われた。

議論に基づき、年間20ミリシーベルトの健康影響についての科学的な見解と、放射線防護の基準が国際的な見地から見て妥当なのかの2点に重点を置いた報告書が作成された。

(報告書、検討経過は、内閣官房ホームページhttp://www.cas.go.jp/jp/genpatsujiko/info/news_111110.html

に全て掲載されている。)

 

【被ばくのリスク】

原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)による広島・長崎の原爆被ばく者の疫学調査をベースとした報告では、被ばく線量が、100ミリシーベルトを超えると発がんリスクが向上することが報告されている。それ未満では他の発がん要因に隠れ、リスクは見えなくなってしまう。また、瞬間的に強い被ばくをした場合と、長い年月をかけた被ばくとでは、長い年月をかけたほうが人体への影響が小さいとされている。例えば、生涯の蓄積線量が500ミリシーベルトを超える自然環境の地域(年間10ミリシーベルト弱)に住んでいる集団から、発がんリスクの増加は報告されていない。

 

【外部被ばくと内部被ばくの違い】

外部被ばくと内部被ばくの評価では、放射性物質を吸い込んだり、食物から取り込んだりすることによる内部被ばくの場合は、それが体内で蓄積や代謝される度合いを考慮して計算した、臓器が受ける等価線量(シーベルト)が同じであれば、外部被ばくと内部被ばくのリスクは同等と評価される。

 

【福島ではセシウムによる被ばくと考える】

プルトニウムやストロンチウムは、近距離での放射線が強く、セシウムよりも実効線量が大きいが、福島では、プルトニウムやストロンチウムの大きな飛散は認められていないので、セシウムによる被ばくを主として考えれば良い。

 

【子どもへの影響、100ミリシーベルトの基準】

高線量の場合、子どもは大人より発がんリスクが高いので注意が必要である。

ただし、低線量では、年齢の違いによってリスクに差が出るかは明らかではない。

放射線を浴び続けると細胞内のDNAが損傷し、損傷を受けた細胞ががん化する。しかし、人体には修復機能があり、がん化を防ぐ機能が働く。このため、人体の 防御機能を超える被ばくがなければ、がん化は起こらないと考えられているが、これには個人差があり、データ的に見ると100ミリシーベルトが人体への影響の有無が現在判明しているラインということである。

100ミリシーベルト未満だと小さい線量と言えるが、できれば浴びない方が良いわけで、ICRP(国際放射線防護委員会)では、100ミリシーベルト未満でも少しずつ発がんリスクは上がるという前提で放射線防御の措置はとっていくべきという考えである。

 

【放射線による健康リスクの考え方】

「リスク」というのは、あるから危険だというのではなく、確率的にどれくらいの影響があるかを示したものである。そういった意味でリスクの基準を説明する と、100ミリシーベルトの被ばくで、生涯のがん死亡のリスクが0.5%上がると試算されている。このことから、例えば20ミリシーベルトなら0.1%上がると考えて対策をとるべきということになる。

なお、事故による被ばくリスクを自発的に選択することができるリスク要因と単純に比較することは必ずしも適切ではないものの、リスクの程度を理解する助けとして評価すると、喫煙によるリスクは1,000~2,000ミリシーベルト、肥満は200~500ミリシーベルトの被ばくと同等とされている。

 

【ICRPの「参考レベル」】

ICRP による国際的な放射線防護の考え方としては、まずできるだけ被ばくを小さくすることが前提の上で、参考レベルを設定することとしている。これは、被ばくの状況が「緊急時」ならば100~20ミリシーベルトの範囲で、 「現存」ならば20~1ミリシーベルトの範囲で設定すべきとして、放射線防護の考え方を分けているものである。20ミリシーベルト以上の緊急時では、その場所を避けるために避難等の対応をとる。一方、20ミリシーベルト未満(現存)の状況下では、除染の実施、線量管理の徹底、屋内活動を中心にするなど、避難以外の様々なやり方で防護措置をとっていくことが考えられる。

 

【住民とのリスクコミュニケーションについて】

リスクコミュニケーションについては、発災直後は、不正確な表現が住民の不安をあおり、混乱を招いてしまった。科学的事実によるきちんとしたリスクコミュニケーションが重要である。残念ながら行政官は信頼を失ってしまった。この分野の専門家や、学校の先生や医師などの信頼のある人による科学的知見に基づく草の根レベルで説明活動が重要である。また、測定可能な機器を配備する等の措置も大切である。短期的だけでなく長期的にしっかりやっていくべきである。

また、参考までに申し上げると、政府が各地域の線量を公表しているが、この数値は安全サイドに算定(8時間屋外で活動し、16時間木造家屋の中にいる場合を想定)しているため、実際には被ばくした線量は公表値の1/4程度に相当する方が大半(1ヶ月間の被ばく線量が0.1ミリシーベルト以下の方が約8割)であったという福島市の測定結果がある。

 

【まとめ】

以上のことにより、

①  年間20ミリシーベルトは、他の発がん要因によるリスクと比べて十分に低く、除染や食品の安全管理等でリスクを回避できる水準であり、今後より一層の線量低減を目指すに当たってのスタートラインとしては適切であると評価された。

②  高い被ばく線量では、子どもは成人よりも発がんのリスクが高いことから、住民の不安を考慮に入れて、今後も引き続き子どもに対して優先的に措置をとることは適切である。

③  住民の目線に立って情報を提供するリスクコミュニケーションが必要であり、地元に根付いた方から情報提供していただく。医師等が科学的見地に基づいた説明を行い、また住民が参加した取組が不可欠である。

 

【5つの提言】

これらを踏まえ、

①  除染には優先順位をつけ、目標を設定して行うこと。(例えば、まずは2年後に年間10ミリシーベルトまで、その目標が達成されたのち、次の段階として年間5ミリシーベルトまで、というように漸進的に設定して行う。)

②  子どもの生活環境の除染を優先すべき。(校庭・園庭の空間線量率が毎時1マイクロシーベルト以上の学校等は、避難区域内の学校等を再開する前に、それ未満とする。さらに、通学路や公園など子どもの生活圏についても徹底した除染を行い、長期的に追加被ばく線量を年間1ミリシーベルト以下とすることを目指す。)

③  特に子どもの食品に配慮し、適切な基準の設定、食品の放射能測定器の地域への配備を進めるべき。

④  専門家が住民と継続的に対話を行えるようにすることと、地域に密着した専門家の育成を行うこと。

⑤  福島の皆さんの不安感を払しょくするためにも、他の発がんリスクの低減をすることによって、例えば、検診受診率の向上等を含めて政策をパッケージとして打ち出すことにより、例えば20年後を目途に、全国でがん死亡率が最も低い県を目指すこと。

という5つの提言がなされた。

 

資料3-1:低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ概要

 

資料3-2:低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書について

 

資料3-3:低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書

 

「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」報告書に基づいた健康への影響とこれからの取組み

http://www.cas.go.jp/jp/genpatsujiko/info/twg/120228.pdf

 

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